Ait Ben Haddoou

アイト・ベン・ハッドゥ。
アトラス山脈を南側に下ると現れる村。斜面にいくつものクサル(要塞化された住居)が建つ姿は圧巻。土や日干し煉瓦でここまでの構築物がつくれるということに驚きを感じる。
写真は村をやや横面から眺めたところ。日没がちかくて時間がなく、正面からの写真は撮れず。

周辺の村々に比べてクサルの保存状態が格段に良い。対岸に造られた新しい村にほとんどの住人が移り住んでいたが、国の援助も受けながら数家族が旧村に戻り保存・修復を進めているとのこと。


対岸に車を停め徒歩で旧村に向かう。新しい村と旧村を隔てる川はロバに乗って渡るのが唯一のルート。バランスを崩したら冷たい水の中へ。以前は橋があったようだが、風景を守るためか渡しの商売をするためか今では橋がない。

対岸に着き、アイト・ベン・ハッドゥの村の中を歩き始める。村の中は細道。斜面に造られた村なのでほとんどが坂道や階段。石や日干し煉瓦も用いられているが、建物や路面のほとんどが土でできた土の村。ヨーロッパなどの石の空間とも全く違う空気感が漂います。

進むと所々にクサルの塔が現れる。装飾的な彫り込みはベルベル人特有の幾何学。雨が少ないとはいえ、これらの造作を維持するのには苦労しそう。部分的に窓や換気窓としての役割も兼ねているそうだ。

少しずつ高い場所へとのぼっていく。徐々に視界が開けていく。数日前の雨を未だに少し蓄えたような質感の壁に、低い太陽の光が反射している。

中腹に辿り着く。低い場所に建っているクサルの上部と同じくらいの高さ。もう少し景色の良い地点に行くため、一件の住戸兼お店へと入ることに。ガイドの案内で中腹の土産物屋の家の中に入り部屋を抜けていくと、村を見渡せる屋上テラスに出られた。

緑のオアシスの中に立ち上がる異形の建築群。とにかく独特。それぞれのクサルが独立して建っているのではなく、外壁が複雑に絡み合って構成されている。修復・未修復の建物が混在していることもあって、さらに複雑な様相をみせている。
屋根形状は実は陸屋根で、光沢感のある土により塗り固められている。おそらく粘土のように多少防水性がある土質なのかもしれない。壁・軒・屋根が同じ素材のようでも製法・工法が異なっているようだ。

日没が迫ってきているので店主に帰りに寄ることを約束して再び山の上へと歩き始める。

クサルの小屋上部。なんともいえない造形。

小屋の屋根のディテール。竹のような樹幹を並べ、その上にセメントのような土を瓦代わりに敷き詰めている。鳥の糞のようにも見える。雨の少ない地域ならではの造り。

村を抜け、山の上へと階段・斜面を上がっていく。山の上に見えるのはクサルもしくはカスバの跡か。原型を留めていないくらい崩壊してしまい、そのまま大地へと還っていっている。

頂上からは雄大な風景を一望できる。この地は「アラビアのロレンス」などの映画のロケ地としても有名。

村を見下ろす。乾いた大地の僅かな緑地に守られるかのようなアイト・ベン・ハッドゥの村。
過酷な大地に築かれた脆い構築物。それ故、人の強さを感じる。

入り口の門付近。時間がなくこの付近は上から眺めるのみに。残念。
個々の建物が重なり合い、集落全体が砦のような様相となっている。

来るときに渡った川岸を見下ろす。対岸が新しいアイト・ベン・ハッドゥの村。現在のほとんど住民はこちら側に住んでいる。川の中の黒い点は観光客をロバに乗せて川を渡らせる商売をしている子供たち。

斜面を降り再び村に中へ。約束通りさきほどクサルの中を見せてもらった土産物屋に寄る。お店の商品は絨毯。ベルベル人特有の柄の絨毯が目の前に次々に並んでいく。旅行前は全く買う気はなかったはずが、気持ちが徐々にぐらつく。

マラケシュではトルコ風の幾何学模様の絨毯などを良く目にしたが、ここにあるのは全く異なる模様。まるで昔のインベーダーゲームのようなかなり抽象的でミステリアスな形状。
素材もウールやラクダの毛だけでなくサボテンの繊維も使われており、丈夫な印象。少し荒々しいが不思議な光沢感がある。機械織りではなくハンドメイドとの話。(ちなみにペルシャ絨毯など緻密な模様が売りの絨毯はハンドメイドよりも精緻に織れる機械織りの方が価値が高いこともある。もちろん素材が良いことが前提だが。)
悩んだ末に2枚を購入。もちろんしぶとく価格交渉は忘れず。そこそこの金額はしましたが、それでも日本で買うよりも1/5 〜 1/10程度。
染色材が天然なので紫外線に弱いが、いまだ大事に使っている。

1枚は黒ベースの中にサフランで染めたという黄色い糸が入ったもの。独特な色の組み合わせ。糸はやや太め。抽象的な模様にはそれぞれに意味があるらしい。

もう1枚は朱色と黄色が混ざった不思議な色合い。
カーペットの端を見ると手織りか機械織りかがわかるとのこと。手織りは織りはじめと織り終わりの仕舞が異なる。織りはじめ部分は軸を通して織っていくので、その部分が残り、尻の部分は糸がまとめられている。


ミントティーをいただきながら世間話をしてお店をでると、もう日没間近。もっと村の中を見たかったが、先の道を心配してドライバーが急ぎ始める。日の短い冬の旅の短所。

再びロバに乗って川を渡り、振り返ると紫の空を背景に徐々に黒く染まるアイト・ベン・ハッドゥが。


この日はいろいろな風景に出会えたため夢うつつのような状態。後日写真を見返すと、ものすごく特別な場所・時間に身を置いていたのかとあらためて実感。